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3話-8 心の内のこと。

last update 公開日: 2026-01-28 20:00:06

……ちゃんとルファルの手の感触がある。

「はい、大丈夫、みたいです」

リリシアの言葉に、ルファルは安堵の息を吐く。

「それになんだか体がとても軽く、楽なような……」

「我が月光の影響を抑える『月除け』の魔術を宝石にかけたゆえ。そなたが消えずに済み、何よりだ」

シャイン皇帝の言葉にリリシアは身も縮こまる思いで恐縮した。

だが、シャイン皇帝はどこかバツの悪そうな、申し訳なさを滲ませた顔をこちらに向けてくる。

「先程、『解けぬ』と言ったが、言葉足りずであった。『呪いをかけた怪異本体を浄化せねば解けぬ』という意味で言ったのだ。リリシアよ、気を落とさせてすまなかった」

シャイン皇帝は謝罪し、深々と頭を下げる。

「いえ、そんな……むしろ、救って頂き、感謝しかありません。ですからどうか頭をお上げ下さい」

シャイン皇帝は頭を上げると、リリシアを真剣な眼差しで見つめる。

「ここからは大事な話となるが、イーグ
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  • 月灯りの花嫁。   10話-7 幸せになる為に。

    * * * 宿屋から街へ、馬車で揺られて。 「ここが、土産物屋だ」 そう言って、ルファルがやがて足を止めたのは、街の一角にある洗練された店の前だった。 駅からも程近く、潮の香りが微かに残る風が通り抜けていく。 (なんて、お洒落な店……) あまりの美しさに、リリシアは圧倒され、立ち尽くした。 自分のような者が足を踏み入れていい場所なのだろうか。 そんな卑屈な思考が頭を掠めるが、隣に立つルファルの存在がそれを押し留める。 「魔術師達が、よく立ち寄る店でもある」 説明を受け、ルファルの促されるままに店内へ一歩足を踏み入れると、品のいい女性の店主がにこやかに出迎えた。 「これはこれは、ルファル様ではないですか。ようこそお越し下さいました。あら……」 店主の視線が、ルファルの整えられた髪に留まる。 「本日は随分と雰囲気が違いますこと。もしや、隣にいらっしゃる噂の花嫁候補様の影響かしら?」 「……余計なことを言うな」 ルファルの冷たい一喝をよそに、リリシアは棚に並ぶ美しい菓子に目を奪われていた。 純白の粉糖に包まれた、繊細な花びらのような焼き菓子。 (わあ……なんて綺麗。これならルファル様だけでなく、シャイン皇帝やエルシーさん、ハノ様達も喜んで下さるかもしれないわ) 「リリシア。その菓子が気になるのか?」 不意に背後から、ルファルの低く心地よい声が降ってきた。 肩が小さく跳ねる。 「あっ、いえ、その……」 「こちらは『バハル』――海の花と呼ばれるこの街の名物でございまして、口の中で溶け切る前に3度その名を唱えると願いが叶い、幸せを呼ぶお菓子と言われておりますの。宜しければ、ご試食してみませんか?」 戸惑うリリシアを助けるように言葉を重ね、店主が声を掛けて来た。 「リリシア、食べようよ。僕も食べたい」 「……リゼル、お前が先に答えるな」 ルファルはムッとし、不機嫌そうに眉根を寄せたが、リリシアがおずおずと彼を仰ぎ見ると、観念したように店主へ頷いた。 「……用意してくれ」 「かしこまりました」 そうして店主から手渡された菓子をリゼルが真っ先に口へ放り込む。 するとそのまま風のような速さで「バハル」と3度唱え終え、そのあまりの速さにリリシアは目を丸くする。 「リゼル様、凄いです……」 「……余裕。毒も入ってないし、リリシ

  • 月灯りの花嫁。   10話-6 幸せになる為に。

    * * * リリシアは宿屋の玄関先で朝の柔らかな光を背負って佇むルファルの姿を見つけ、リリシアは心持ち急ぎ足で歩み寄った。 彼の端正な横顔。その美しさに、リリシアは一瞬、見惚れてしまいそうになる。 「……ルファル様、お待たせ致しました」 控えめに声をかけると、ルファルは一瞬だけ驚いたように目を見開いたが、すぐにいつもの氷のような無表情へと戻る。 本来なら、部屋で身支度を整え、軽い朝食を済ませてすぐに出発するはずであった。 しかし、ソフィラに「そのお姿で街へ行かれるおつもりですか?」と半ば強引に部屋へ連れ戻され、念入りな化粧と髪結い、そして慣れない華やかなドレスを纏わされた結果、ルファルを長く待たせることになってしまったのだ。 「……私も今しがた部屋を出たところだ。カイスとリゼルは先に外で待たせている。行くぞ」 ぶっきらぼうな、けれど拒絶ではない言葉に安堵し、リリシアはソフィラを連れてルファルの後に続いた。 そして外へ出ると、冷徹な空気を纏うカイスと、どこか虚ろな瞳をしたリゼルが待っていた。 ふとリゼルと目が合う。 (どうしましょう。廊下であんな生意気なことを……その上、お待たせしてしまったわ……) リゼルの気分を害したのではないかと、リリシアは俯きがちに声を絞り出す。 「あ、あの、リゼル様……」 「……リリシア」 不意にリゼルが近づき、リリシアの耳元で密やかに囁いた。 「……許婚の、フロリスの最期の言葉を思い出せたよ。君と同じことを言ってた。……ありがとう」 顔を上げると、そこにはいつもの無機質な表情ではなく、春の陽だまりのような穏やかな微笑みがあった。 リゼルはそのまま、ふわりとした足取りで歩き出す。 「ルファル隊長、リリシア、早く馬車まで行こうよ」 その豹変ぶりに、ルファルさえもが呆然と立ち尽くした。 「……一体どうしというのだ。これまでとは別人のようだが」 恐らく、フロリス(亡き許嫁)の最期の言葉を思い出せたことで、リゼルは前を向くことが出来たのだろう。 けれど、それを説明すれば、自分がリゼルに対して生意気な態度を取ったことまで明かさねばならなくなり、嫌われてしまいそうで。 リリシアはそれを恐れ、言葉を呑み込んだ。 「……まあいい。リリシア」 差し出された大きな掌。リリシアはその手に自分の手を重ねた。 そ

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    * * *――神魔会議前日の深夜のこと。リリシアは一人きりで廊下を歩いていた。月の光で眠れないことは幾度もあった。けれど……。(明日の会議のことが気になって眠れないのは初めてだわ…………)リリシアはふと涼しい風を感じ、中庭の入口を見ると、ルファルの姿を見かけた。以前もルファルが夜風に当たりに来たことがあったが、寝る前、書斎はまだ蠟燭が灯されていたこともあり、恐らく神魔会議で執務が滞る為、これまで必死にこなし、休憩を取りに来たのだろう。

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  • 月灯りの花嫁。   2話-6 花嫁候補のお勤め。

    ルファルが夜空を見上げ、殺気を放つのを彼の胸の中で感じ、リリシアは息を呑む。自分には夜空は一切見えない。夜空に一体何が……。そんな疑問を抱いた時だった。草花がざわめき、一瞬の強風が過ぎ去り、リリシアとルファルの結った長髪が揺れる。この風、まさか…………。リリシアの首筋に冷や汗が流れる。あの儀式の日の記憶が蘇りそうになり、リリシアは縋(すが)るようにルファルの貴族服の胸元をきゅっと掴んだ。そうして、しばしの時が流

  • 月灯りの花嫁。   2話-4 花嫁候補のお勤め。

    * * *翌日の早朝、リリシアは、ぼんやりとベッドの上で目を開けた。夜を超せた……ルファルの花嫁候補になったのは夢ではなかった……。リリシアは夜明けの光を見つめながら思うと、肩にそっと誰かの手が触れ、ハッと意識が鮮明になる。「リリシア様、お目覚めですか?」まずい、ソフィラだ。扉を叩く音、全く聞こえなかった。いつの間に入って来たのだろう?リリシアは視線をソフィラに向ける。「は、はい……」リリシアはベッドから起き上

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